曲を作って曲を売るの話

こちらは、はとさん主催のぽっぽアドベント2024の記事です。

19日目担当のるこです。今年もぽっぽアドベントで様々な人生を浴びる時期がやってきましたね。どの記事も面白いのでぜひ全部読んで欲しい!今回のアドベントのテーマは「枠を壊せ!」ということで、わたしは初めて曲を作ってイベントで売ってみた、という体験について書きます。

M3に参加するぜ

個人で制作した作品を手売りするイベントといえば、真っ先に思い浮かぶのは同人誌即売会の代表格「コミケ」だが、その他にも専門ジャンルに特化したイベントが数多く存在している。創作文学にジャンルを限定した「文学フリマ」なども盛況な今でこそ驚きはないかもしれないが、創作音楽にフォーカスした音系即売会というものも存在する。

M3は、音楽や音声ドラマなどを制作しているサークルの有志により、『自分たちの作品の受け手や他サークルとの交流の場を自分たちの手で作りたい』という想いから設立されたイベントです。

https://www.m3net.jp/about/index.php

”音系・メディアミックス同人即売会”と題されている通り、参加サークルのジャンルはボカロ系からSSW、クラブミュージック、創作ラジオドラマまで多岐にわたる。

フォロイーが定期的に参加していたことから存在自体は以前から知っていたので、今年こそは行ってみようかとイベントについて本腰を入れて調べてみることにした。

音楽メディアというと、みんなCDとかカセットテープとか、フィジカルなグッズを売っているのかしらというイメージだったが、最近は時代の流れか音源のデータのみを販売しているサークルも増えてきているらしい。

確かにいまどきは音楽プレイヤーを所持している人口も少ないだろうし、CDをプレスするとなると発注数の予測や予算含めおおごとになるが、データ販売ならデータさえ用意すればいいのだから、販売する側としても気楽かもしれない。

ところで即売会っていうのは一度でも売る方、つまりサークル側で参加してしまうと、そちらの方が圧倒的に楽しいものである、というのは経験者なら肯いてくれるはずだ。

ならばM3もサークル参加してしまえばいいのでは?データ販売なら在庫も抱えなくて済むし、素人でもどうにかなるのでは?という方向に気持ちが傾くことは当然の流れだった。

わたしはモノづくりの難易度について楽観的に考えてしまう癖があって、たいてい「やれば出来るのでは」と考えて見切り発車した結果そこまでうまくはいかなかったりしている。(ちなみに去年のぽっぽアドベントでは「ピンホールカメラって頑張れば自分で作れるのでは?」という見切り発車をしたお話をしている)

今回も悪い虫が騒いで、あまりよく考えずに参加申し込みをしてしまった。しかし、そもそも「作曲」という最初の山が近づくにつれ想像よりもはるかに高かったことには後から気が付いたのだった。

わたしが作ってみたかったのは、弾き語りやバンド音楽ではなくパソコン上で作る音楽だったので、昨今は多機能な作曲ソフトの普及によって、音楽制作のハードルは大分下がったように見える。

実際に簡単に形にするための方法自体は増えてはいて、例えばいくつか素材を選ぶだけでそれを組み合わせて曲っぽくしてくれるアプリもあるし、その素材自体すらシステム側が選んでくれるような機能もあったりするし、もっといえば「こういう感じの曲で」と文章で指定すればそれっぽい曲を作ってくれるAIサービスまである。

そんな風に方法はたくさんあったとしても、「自分の曲」を作るための方法論は自分で選び取らなくちゃいけないことに代わりはない。

果たして自分がやりたい表現っていうのは、従来の作曲手法に対抗するためにAIにうまく指示を出すという技術によって達成されるものなのか、過去に敬意を払うためにビートルズのコード進行を引用して作るってことなのか、はたまた自意識を廃するためにサイコロをふってジャクソン・ポロックみたいにメロディを配置していくようなことなのか、ただ特定のドラムマシンの音を鳴らしたいってことなのか、、自分が望んでいるのは一体なんなのか、それが意外にわからない。

選択肢が多すぎて自分が望むことがわからないっていうのは現代病的かもしれない。

むしろ学生時代にバンドを組んでいた時などのほうがよっぽどてらいなく音楽をやれていた気がする。バンドのいいところは、各々の担当楽器には楽器というフレームの性質上やれることが限られているということと、最終的にはメンバー(他者)にゆだねるという妥協が必ずあることだ。ひとりでPCを使って音楽を作ることの悪いところは、それの真逆であることだ。

ということは、まずは自分で自分に制限を設ける必要がありそうだ。

ひとつは「締め切りの設定」で、これはM3に申し込んだ時点でクリアしている。最低でもイベント参加当日までには作品のデータを完成させる必要があり、逆に言えば締め切りを迎えた瞬間その作品は強制的に「完成」したと見做せる。

もうひとつの制限は「スタイル」を決めることで、制作を始めるとっかかりの糸端を見つけるためには、「無限の可能性」に心が打ちのめされる前に適当なフレームを用意したほうが良いだろう。

そこで先程の「何が望みか」という絶望的な問いに戻ってきてしまうわけだが、自分探しをやりに旅に出る猶予もないので、まずは普段から行っていること、常に身近にあるもの、以前から好きだと公言しているものなど、日々の習慣から何が自分を定義しているかを探してみることにした。

まずすぐに思いついたのはアノンチャンという自分のアバターで、このブログのヘッダーのイラストなどにも描かれているキャラクターがそれである。SNSのアイコンを決める際、自作のイラストにしたくてなんとなく生み出したキャラクターだが、長年アバターとして使っているため大分愛着がわいている。というわけで、アノンチャンをテーマに曲を作ってみることにした。

ふたつめは、こちらも長年愛用しているSuperColliderという音響合成ソフトを使うこと。よく使う道具で音作りをすることが自分の作風に繋がるのではないかと思った。

*SuperColliderがどういったソフトなのかは以前、「プログラミング言語で音作り!?SuperCollider 超入門」という動画の作成に協力させてもらったので、よければご覧ください。

さて、キャラクターソングなので、歌詞は全部「アノンチャン」を連呼することとした(ミッキーマウスマーチの要領だ)。歌の部分は友人のお子さんに「アノンチャン」と言ってもらった音声を使わせてもらい、SuperColliderを使って音を加工しまくるなどをして構築していった。

最初にスタイルについてごちゃごちゃと頭でっかちに考えていたけれど、実際作り始めてみると「どうしてもこうなってしまう」傾向っていうのは確実にあって、要はそれが自分のスタイルになっていくんだと思う。盆栽のようなもので、形を整えることは出来ても枝が伸びていく方向を100%思い通りにはできない。例えば自分は理想としてはミニマルな音作りがしたいとおもっているのに、気づくとどんどん音数が増えてごちゃごちゃしてきてしまう(これが単に技術が足りないだけなのかスタイルと言っていいのかの判断は難しいが、魅力的な部分は短所に現れるというのがわたしの信条なので、後者ということにしておこう)。とにかく触っていかないと自分の手垢はついていかない。

と、分かったように書いているけれど今振り返ってもはたして「曲」というものが出来たのか出来ていないのかすら自分でよくわかっていない。とにかく締め切りがあったのでなんとか形にしていくことができた。

準備をするぜ

音楽データが作れたところで、会場ではどのようにそれを販売しているのか?現在主流になっているのはシリアルコードを記載したDLカード形式だ。カードを購入した人が指定のURLでコードを入力することで音源のデジタルデータがダウンロードできる仕組みになっている。

わたしもこれに倣って、名刺サイズのカードにイラストを印刷し、裏面にシリアルコードを印字したシールを貼り付けてDLカードを制作した。それだけだと寂しいので、というより単に自分が作りたいので、他にも缶バッヂやアクスタなどのアノンチャングッズも作ることにした。

最終的に当日用意したアイテムのお品書きはこんな感じに。

boothにも置いてます

自分で書いていても恐ろしくなってくるのだが、ここまで「需要」というものをまるで考えずに作っている。もちろん印刷所には最低ロットで発注しているのだが、そもそも興味をもってもらえそうな層はあるのかとか、誰が買ってくれるのかとか、そういうことは度外視して自分の作りたいがままに作っていた。いや、同人活動というのは本来そういうもののはずなのだが。。

イベント当日

実際に来てみると想像より参加サークル数が多い。果てしなく机が並んでいるように見えて、端から端まで見て回ったら日が暮れそうな感じだ。

多忙の中友人がサークルスペースの設営を手伝ってくれた(感謝!)。以前に二次創作系のイベントに参加したことがあったので、値札や敷物などの必要なものは一応準備してくることが出来た。

が、雰囲気は過去に参加した二次創作系のイベントとは全く異なっていた。

具体的にはある映画作品のパロディ本を作ってイベントに参加したことがあったのだが、そういった比較的ニッチなジャンルの二次創作系のイベントには同好の士の交流的な雰囲気が土台にあり、同じジャンルを取り扱っているサークルであれば、知らない作家の作品でもなんとなくひと通りはお互いに買いまわって楽しむような風土があった。

しかしオリジナル作品の販売となると、サークルの「ジャンル分け」だけでそれと似たような連帯を生むのは難しいと感じた。

規模の大きさと混雑もあって、何となく会場を見て回って作品との出会いを探すというよりは、最初からお目当てのサークルに直進する人がほとんどのようだった(実際、わたしもサークル参加リストから気になる作品をリストアップしていこうかと思っていたが、リストが膨大すぎて結局予め知っている方の作品しか買えなかった)。付近のサークル参加者はそれなりに顔が広いようだったが、しきりに売上高とマーケティングの必要性についての話をしていた。

しかし、曲が出来るまではずっと自分が何が好きとか嫌いとか、感覚的なことばかり内省していたのに、曲が完成した途端「流通」のステージに立たされるという急なモラトリアムからの卒業に面食らってしまって、イベント自体にもだいぶ気圧されてしまった。

『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』という映画のラストに、レオナルド・ディカプリオが「このペンを俺に売ってみろ!」と言う有名なシーンがあり、それは何でもないペンをどう他人に売りつけるかというビジネスの課題なのだが、M3のような大規模のイベントで自分を見つけてもらってさらに作品を買ってもらうには、この時のディカプリオぐらいのマーケティングの才が必要になるのかもしれない。しかし自分にとって何でもないペンだからこそ、まやかしのような付加価値をつけることに抵抗がないわけで(結局ディカプリオは、「このナプキンに名前を書いてくれないか?」 と言うことでその場だけのペンの必要性を生み出す)自分にとって価値のあるものについて、例えば子供の頃連れまわしてボロボロになったぬいぐるみの「市場価値」について考えるのは無意味だ。

イベントに参加してからそんなことをぐるぐる考えている具合のわたしだったが、なんとそんな中でも、「これください」と言ってくれる方が数名現れ、おそらくその場のノリで買っていってくれた方や、中にはわざわざわたしのサークルのためにイベントに足を運んでくれた方もいらっしゃり、その瞬間は本当に感動で、きっとみんなこのために参加しているんだなあと実感した。初めて人が自分の音楽を手に取ってくれた瞬間のことはこの先も忘れないだろう。

やっぱり人に評価されるのは嬉しいし、もっと多くの人にアノンチャンを届けたいんだよな~というシンプルな衝動と、活動の持続可能性のために「ペンを売る」ことを考えなくちゃいけないその間に、もう少し心理的なマージンになるような場があるといいなと感じた。

最後に、今回作ってみた曲はyoutubeにアップしているので、良かったら聴いてみてね。

因みになぜタイトルが『アノンチャンのうた(2)』なのか、、、実は長くなるのでこの記事では省いたが、実際には一作目があって、サウンドシェアというイベントに参加するために制作したものだった。その時の話はこちら

以上でわたしの話は終わりますが、ぽっぽアドベントは25日まで続きます!明日はあとりさんが担当される記事です、今後のアドベントもお楽しみに!