『ドクター・フー』特集書き起こし

アクター6ジャンクションで『ドクター・フー』について紹介した回の書き起こしです。

宇田丸)「GWに楽しむ長編ドラマの世界」特集。普段はゆっくりドラマを見る時間が取れない方も、このゴールデンウィークを利用してどっぷりドラマの世界に浸ってみるのはいかがでしょうか、ということで、シリーズ数、エピソード数の多い名作ドラマをこの機会に紹介していきましょう。今回はこの機会に推しドラマをレコメンドしたい!というリスナーの方にお越しいただきました。

るこ)こんにちは。今回は『ドクター・フー 』シリーズを紹介させてください。

宇田丸)はい、基本情報をお伝えしますと、『ドクター・フー 』はイギリスのBBCで放送されている超有名SFドラマ、なんと1963年から放送されている長寿番組です。主人公のドクターは宇宙人で、タイムトラベルする能力を持っています。彼がいろいろな時代や惑星を旅し、敵と戦ったり、人々を助けたりする、というのがメインのストーリーですね。

るこ)ありがとうございます。で、『ドクター・フー 』の魅力っていうのは、ずばりこの「長さ」なんですよ。

 歴史の長いシリーズって、例えば日本で身近なところだとドラえもんとかサザエさんとか思い浮かびますが、登場人物の設定をそのまま今の時代に持ってきてその都度リブートしているってパターンが多いですよね。

 登場人物もずっとスタート時のまま、歳をとらないわけなんで。ですが、『ドクター・フー 』っていうのは1963年に始まってから今まで、ひとつながりの時系列をずっと進んでいるストーリーなんです。

宇田丸)シリーズとしては1963年〜1989年までで一旦終わって、2005年にリブートしていますけど、そこで「現代版」として話をリセットしたのではなく、そのまま繋がっている?

るこ)そうです。つまり、主人公のドクターが1963年から現代までずっと歳をとり続けながら旅を続けているという話なんですよこれ!

宇田丸)シーズンごとにデヴィッド・テナント、マット・スミス、最近ではジョディ・ウィテカーと役者が変わってますけど、どれも”同一”のドクターなんですよね?

るこ)ドクターは瀕死になると、「リジェネレイト」することで復活できるという生態を持っているんですが、その副作用で姿形が変わってしまう、って設定なんです。

 だから、「リジェネレイト」して役者が変わってもドクターとしてのアイデンティティはひとつなんです。

 元々は、初代ドクターのウィリアム・ハートネルさんが撮影時にご病気で体調が悪くなってしまって、違う役者に交代せざるを得なかった状況から、この設定が生み出されたらしいのですが。

宇田丸)大人の事情で生み出した設定が、逆にドラマの特色になっちゃったのは面白いですね。でもこの仕掛けがあったおかげで時代を超えて巨大なストーリーが作れたと。

るこ)でもね、ドクターの方は時代に合わせてどんどん刷新されていくのに、ドクターと一緒に旅をする人間…コンパニオンと呼ばれるんですが、彼らはそうではない。

 ドクターは地球が好きで、時には人間に恋したりもするんですが、人間はドクターと違って普通に老いていきますよね。だから『ドクター・フー 』のテーマのひとつは、ドクターの抱える孤独なんですよ。

宇田丸)ああ、ちょっとなんか『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』みたいな。

るこ)旧シリーズでドクターと旅をしたコンパニオンのひとりの女性が、新シリーズのデビッド・テナントのドクターの前に再登場するっていうエピソードがあるんです。

 すると、ドクターの方は若返っていて、彼女のほうは年をとっているんですね。それで彼女が、「あなたは、私の若い時期に凄いスペクタルを経験させて、一瞬だけ夢を見せて、消えてしまった。残された私の方は、その後自分の人生を取り戻すのにずいぶん時間を要した」ってことをドクターに言うんですよ。

宇田丸)結構、厳しいことを言いますねえ。

るこ)多分当時は慣例的にコンパニオンが若い女性になっていたというだけの話が、時代が経ったことによって批評的な視点が生まれてくる例ですよね。結構厳しいんですよドクター・フーって。脚本家がドクターを苦しめるのが好きなんですよ。精神的に追い詰められる展開になればなるほど筆が乗ってるのが分かるんですよね。ちょっとちいかわに近い気もします。

宇田丸)ドクター・フー=ちいかわ説?!

るこ)表向きはファミリー向けだしお子さんが見ても安全だけどよく考えるとトラウマ的、みたいな部分は似ていると思います。

 話を戻しますと、ドクター・フーは過去の自分の行いに責任を持つとは、って話が多いんですよね。ドクターには膨大な過去の過ちがあるので(笑)。

 でも例えば、時代ごとに「新しい」ドクターの話です、って仕切り直せるのであれば、過去のシリーズで倫理的に間違ったことをドクターがやってたとしても、なかったことにして「今回のドクターは”正しい”ドクターです」って設定変えちゃえば済むじゃないですか。

宇田丸)ああ、でも話が繋がってるとそうはできないわけですよね。間違ったことをしたのもドクターの過去として、「なかったこと」にはできない。

るこ)だからその時代時代にはドクターが良いと思ってやってたことも、現代、未来から振り返ったらアウトなことをしている可能性もあるじゃないですか、それも全部抱えなきゃいけない。でも、ドクターが間違うこともあるっていうのは逆に希望があると思うんですよ。間違えたから終わりじゃなくて、それでもその時できる善をやっていこうよっていう。

宇田丸)直近のシーズンではドクターを女性のジョディ・ウィテカーが演じていたじゃないですか。で、次シーズンではンクーティ・ガトワが決まっていて、初の黒人ドクターになる。時代に対する批評性を感じますね。

るこ)ドクターは基本ちょっと自信家キャラなんで、地球人より物を分かってるつもりでいるんですけど、それでも意外と自分が女性の姿になるまで気付いてなかったことを発見したりとかね、女性差別についてとか。

 あと、公民権運動の発端となった「ローザパークスがバスの席を譲らなかった瞬間」にドクターが居合わせてしまう回があったんですが、実はドクターが彼女を助けてましたって脚本だけはやっちゃ駄目じゃないですか。結果、白人女性の見た目であるドクターが“加害者“として歴史が貫徹されるのを見届けるしかなくて…っていう凄い話がありましたね。

 ジョディ・ウィテカーのドクターは啓蒙的な話が多いのでファミリー向けだと思います。

宇田丸)シリーズによってドラマのカラーがかなり違うんじゃないかと思うんですが、どのドクターがお勧めとかは?

るこ)個人的にはデヴィッド・テナントのドクターが出てくるシリーズ4が好きですね。この時のコンパニオンがドナ・ノーブルっていうんですけど、中年の派遣社員で、仕事が続かなくて、高齢の親と一緒に住んでて、結婚するはずだった男には逃げられて…みたいな。ちょっと人生しょっぺえな、って感じで生きてるんですけど、ドクターと一緒に旅に出たら、いろんな派遣で得た知識とか経験がそこでめちゃくちゃ頼りになるんですよ。そこで彼女自身も自分の能力と価値に気づいていって…

宇田丸)聞いてると、ちょっと『エブエブ』みもありますよね。

るこ)そうですね!2008年スタートのシリーズなので、結構やるの早いですね。ドクターとの関係性も男女バディ的な関係性で良いんです。このドクターは女にモテるんですけど、顔がデヴィッド・テナントなので(笑)ドクターに遊び行こうよって誘われてもドナは「めんどくせえからあんた独りで行きな」とか平気で言うみたいな。

 あと、ドクターの宿敵でマスターっていう重要キャラクターが居るんですけど、ドクターとマスターの関係性は完全にシャーロックホームズとモリアーティなので、マスターが出てくるシリーズはオタク向けにおすすめです。

宇田丸)ホームズといえば、BBCのSHERLOCKをやっていたスティーブン・モファットが脚本を書いているシリーズもありますもんね。

るこ)シリーズ5〜10はモファットがメインで書いてますね。なので、敵対しあっているんだけど共依存的な関係性でもあるみたいな、そういうのはもうモファットの十八番じゃないですか。ちなみにマスターの方も「リジェネレイト」するので、ドクターとマスターは時に男同士だったり男女だったりその逆だったりして、そこでちょとパワーバランスが変わっていくのも面白さです。あとモファット脚本は本当に登場人物が可哀想な回が多いですね。もう、毎話インフィニティーウォーみたいな感じで壮絶です。そういう性癖なんでしょうね。

 そして、待望の新シリーズはシリーズ1〜4でメイン脚本家だったラッセル・T・デイヴィスが帰ってくるらしく、かなり期待しています。この人はマジの天才だと思っているんですよ。『クィア・アズ・フォーク』や最近は『IT’S A SIN』でも注目されていました。

宇田丸)新シリーズは今年放送予定ですか?

るこ)はい、Disney+で配信されるんじゃないかという噂もありますが。。ドクター・フー はこれまでも日本での配信が結構遅れたりしていたので、ちゃんと配信決定するまで油断はできません。それも、新シリーズに向けた日本での盛り上がりにかかっていると思うので。。気になった方はぜひ!

宇田丸)過去のシリーズはU-NEXT、Hulu、Amazon Prime(有料レンタル)で配信されていますが、最新のシリーズ13まで見られるのは現在Huluだけのようです。

るこ)どうぞよろしくお願いします〜!

追記:

ついでに、初見の方におすすめのエピソードを挙げておきます

  • シリーズ2 EP4 暖炉の少女
  • シリーズ3 EP10 まばたきするな(Blink)
  • シリーズ4 EP9/10 静寂の図書館/影の森
  • シリーズ6 EP10 無情に流れる時間
  • シリーズ9 EP11 影に捕われて